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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和41年(ワ)134号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕原告は、被告Y1が有限会社A(以下A会社という。)事務所から立退くにあたり、A会社のため集金した現金二〇万円を横領した旨主張するので、この点につき判断する。<証拠>によると、被告Y1は、A会社のため、訴外Bから工事代金として昭和三九年六月三〇日に金一〇〇万円、訴外Cから工事代金として昭和三九年七月七日ごろ金六三万円位を受取つていること、および被告Y1はA会社の代表取締役として、同被告個人の企業と同様な形態でA会社の経営を担当し、A会社の取引および経理関係をも自ら処理していたことが認められる。

右認定事実によると、被告Y1は自ら、A会社のた、前示集金一六三万円位を保管していたことが推認できる。

右集金一六三万円位のうち、乙号各証によると、約七〇万円位を他に支払つた旨の書面があり、被告Y1の供述(第一、二回)および証人甲の証言のうちには、約八〇万円を訴外甲に支払い、そのほかは乙号証の示す債権者その他雑費として支払つた旨の供述が見受けられる。

けれども、右乙号証には支払日付が昭和三九年六月二九日以前のものや領収印のない請求書のみのものもあり、また宛名がA会社ではなく被告Y1個人のもの或は本訴提起後本件立証の目的で作成された書面などあつて、同趣旨の被告Y1の供述と合せてもたやすく措信できないのみならず、前示訴外甲に対する八〇万円の支払についても、これを裏付ける証拠が不充分であつて直ちに信用できない。

被告Y1が、前記一六三万円位をA会社のために他の債権者に支払つたことの立証方法は、A会社の会社帳簿および支払を証する証拠書類を提出すれば足りるのであるが、被告らはこれを紛失ないし処分したと称して提出していない。

<証拠>によると、A会社において原告に宛て振出した約束手形が、昭和三九年七月一一日不渡りとなり、訴外乙がA会社の事務所を訪れたところ、被告Y1は雲がくして所在が判明せず、訴外丙某から被告Y1がA会社の集金一二〇万円ばかりを持つて行つた趣旨のことを聞いたこと、原告は被告Y1を告訴したことなどの事実が認められ、これに反する証人甲の供述は、たやすく信用できない。

ところで、以上に認定したように、代表取締役の個人企業的色彩を持つ会社企業の倒産とその際における代表取締役らの会社所有財産の持逃げを疑うに足りる情況があり、かつ代表取締役が所在不明となる直前において会社のため取引先から集金した金額が明瞭に立証された場合に、その金額の使途につき代表取締役において、会社の帳簿や証拠書類を証拠として提出し、右金額が会社のため支出されたことを立証しないときは、右集金を右代表取締役において会社のため使用しなかつたものと推認するのが相当である。

けだし有限会社は商人とみなされるから、その代表取締役は、帳簿を備え付けて日々の取引その他財産に影響を及ぼすべき一切の事項を整然かつ明瞭に記載し、それを証拠書類とともに保存すべき義務があることは明らかであり、これらの帳簿類を証拠として提出すれば、直ちに会社の収支状況が明白に証明できる性質のものであるから、代表取締役が会社のため保管する金員を正当に支出した旨の挙証は、代表取締役において会社の帳簿や証拠書類を証拠として提出してなすべき必要があるものというべく、これを提出しないときは、前示のような特段の事情がある場合にかぎり、代表取締役に不利益に推認されるのも止むを得ないからである。

以上によれば、被告Y1が、A会社のため保管していた現金一六三万円位は、その使途不明として会社のため支出されなかつたものと推認すべきである。

そうすると、被告Y1が、自己がA会社のために保管する金員をA会社のため使用せず、A会社の業務を放棄して所在をくらましたことにより、A会社の倒産が確定的となつたものであることは、前示認定の諸事情から推知することができるから、被告Y1のかかる行為はA会社の代表取締役として職務執行につき悪意があつたものというべく、原告は被告Y1の右行為によりA会社に対する債権の回収が不可能となり、右債権と同額の損害を蒙つたものということができる。

従つて、被告Y1は原告に対し、右損害を賠償すべき義務があるから、本訴請求中、同被告に対し右債権元本金七九一、〇七一円とこれに対する弁済期(手形支払期日)以後である昭和三九年一一月一二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、理由があるから相当として認容すべきである。

二、次に被告Y2、同Y3の責任について判断する。

まず、右被告ら二名がA会社の取締役として、被告Y1の前示違法行為に加担し、或は共謀したことを認めるに足りる立証はない。そこで原告の予備的主張について考える。請求原因第五項の(一)の(二)事実は、当事者間に争いがない。けれども右事実のうち、同被告らが取締役として、有権会社法第四三条第一項所定の書類および同法第四六条第一項で準用する商法第二九三条の五所定の附属明細書を備付けていなかつたとしても、かかる義務違背とA会社倒産による原告の債権の回収不能による損害との間に因果関係を推認するに由なく、また右因果関係の存在についての立証も見当らないから、右主張に基づいて同被告らに対し、原告の損害を賠償させる理由は、これを直ちに発見しがたいのである。

次に、同被告らが、A会社の取締役として、A会社の会社帳簿を一回も閲覧せず、かつ営業に無関心であつたとしても、同被告らにおいて、例えば、代表取締役たる被告Y1の前示違法を阻止し得たのにかかわらず、悪意ないし重大なる過失により、これを阻止しなかつたとか、あるいは、A会社の倒産が代表取締役たる被告Y1の放漫な経営に起因しており、かつこれを同被告らにおいて監視是正する機会があつたのにかかわらず、無意ないし重大なる過失により、これらの対策を講じなかつたといつた点についての主張、立証があれば格別、これがない本件にあつては、同被告らが取締役として営業に無関心であつたというだけでは、取締役の右行為と原告の損害との間の因果関係を認めるに由ないのみならず、また、有限会社法第三〇条の三第一項に規定する「取締役が職務を行うにつき悪意又は重大なる過失があつた」ものということもできない。

以上により、原告の被告Y2、同Y3に対する主張は理由がなく、本訴請求中同被告らに対する部分は失当として棄却を免れない。(安田実)

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